男女共同参画学協会連絡会

Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering (EPMEWSE)

調査報告:女性研究者が顕著に増加している「成功事例」について--- 国立遺伝学研究所の例に学ぶ ---

女性研究者が顕著に増加している「成功事例」について
-- 国立遺伝学研究所の例に学ぶ --

 国立遺伝学研究所(小原雄治所長、以下、遺伝研と省略)は、静岡県三島市にあり、5研究系と5センター、全35の研究グループからなるからなる研究機関である (http://www.nig.ac.jp/)

 この研究所における研究者の女性比率が、国内の他大学、他研究機関に比して顕著に高いことは、これまでにも関係者のなかでは広く知られていたことである。今回、遺伝学研究所要覧2005年号に「遺伝研における男女共同参画」と題する報告が掲載された(http://www.nig.ac.jp/jimu/danjo/)。その中で、その理由の一端について触れられている。この報告で考察対象となった女性研究者は、教授、助教授の職にある独立研究グループ長(PI;Principal Investigator)に限っているが、その比率は17.1%(35名の総PI中、6名の女性PI)となっている。この数値はアメリカのライフサイエンス系学部の女性PIの割合(Princeton Univ. 27.7%、UC Berkeley, 23.5%、Stanford Univ. 28.6%、Harvard Univ. 18.6% )よりはかなり低いが、日本国内の大学の教授、助教授における平均女性比率(教授4.9%、助教授9.2%)よりはるかに高い。

 その背景として、 報告では、遺伝研における女性研究者の歴史と伝統があげられている。遺伝研における女性研究者の歴史は実際には古いもので、1970年代後半、室長(現在の助教授)に昇進された太田朋子、森島啓子の二人に始まる。以来、30年以上にわたって太田氏は集団遺伝学(中立説)、森島氏は野生イネの生態遺伝学に大きな業績を残された。

 この報告では、遺伝研におけるここ12年間の人事をサーベイした結果、教員の公募は62件、内17.7%で女性が採用されていること、さらに応募者の総数615人の内、女性が82人(13.3%)であったことから、「遺伝研は特に女性を優遇して採用したのではなく、優秀な女性が応募してきた結果、女性PIがふえた。」としている。「何故、女性が多く応募してきたか?」 その理由として、報告では「助教授PI制度が女性応募者の割合を高めている」と結論している。助教授PI制度というのは、助教授も研究グループのリーダーになるというシステムで、アメリカの大学で、研究者が ”Assistant Professor” として独立して、初めて自分の研究室をもつ制度と共通した部分が多い。遺伝研がこのシステムに移行した背景には、1990年代半ばの各種センターの新設も一役買ったと考えられる。なぜなら、各種センターにあたえられたポジションはほとんど「助教授ヘッド」だったのである。

 助教授PI制度の利点は、「研究室が小規模で運営しやすいこと」と同時に、教授公募に比べて、助教授公募の方が応募できる女性の母集団が大きくなることにもある。実際に、過去の公募を見てみると、遺伝研が採用する職種を「教授」に絞って公募した場合には女性の応募者は全応募者の約3%だったのに対し、「助教授」公募や「教授または助教授」の公募の場合には、約11%となっている。つまり、助教授PIの公募に際しては、教授人事の約4倍も高い割合で女性が応募したことがわかる。報告では、日本国内における同様な例として、遺伝研の助教授PIに相当する「若手PI」を公募した京大や理研の場合でも、女性応募者の割合は遺伝研とほぼ同等になっており、このシステムが女性のキャリアアップにとって有効に働いているとしている。

 特筆すべきことに、公募人事に際して「応募者の何割が女性であったか?」ということが公表されたのは、実は遺伝研のこの報告がはじめてなのである。これまでは、教員の女性比率を考察する場合、すでに採用された女性教員の比率の多寡を論じてきたわけで、「公募における女性応募者の割合」を共同参画の有効な「指標」として扱う試みはしてこなかった。なぜなら、その割合を知りたいと思っても、多くの場合「採用人事に関する情報」は公開されないのが常だからである。

 しかし、今回、遺伝研は京大や理研、さらには米国の2大学の協力を得て、複数の研究機関における「公募における女性応募者の割合」を公表することができた。この数字は、上記研究機関の公募人事に応募した「PI候補」と見なされる研究者層に、女性がどれだけいたかを表すものである。遺伝研、京大、理研におけるこの値は、平均11%前後で各研究機関の間で殆ど差は見られない。しかし、報告でも指摘されているように、米国の2大学の場合に比べると、その割合は2分の1以下となっている。ところで、現在の我が国のライフサイエンス系分野、例えば日本分子生物学会におけるポスドクと大学院生の女性比率は、それぞれ、約36%と32%である(日本分子生物学会「ライフサイエンスの分野における男女共同参画の推進に関する提言」(http://wwwsoc.nii.ac.jp/mbsj/kyodosankaku/kyosank_teigenkeisai.htm) ※注1)。この値は遺伝研、理研、京大の例に見られる「公募における女性応募者の割合」よりはるかに高い。つまり、この事実は、今後、女性の PIを増やそうとする場合、この候補者層における女性比率を上げることが、ポスドクや大学院生における女性比率を上げることと同等、あるいはそれ以上に重要な課題となることを意味している。

 このように、「公募における女性応募者の割合」を明らかにすることによって、従来のように、単に「ポスドク・院生における女性比率」と「PIにおける女性比率」を比較することとは比べものにならないほど、つっこんだ考察が可能になり、ひいては、女性のPIを増やすための、より的確かつ具体的な方策を立てることができると考えられる。そこで、我々は、全国の大学や研究機関で行われる「公募人事における女性応募者の割合」が、例えば、一定期間ごとに公開されるよう提案する。この情報公開の内容は、後輩の女性研究者にとっても、その分野や研究機関の現状を知る有効なバロメーターとなるはずである。 また、採用する側にとっても、女性の応募が一件もないというのは、おそらく歓迎すべきこととは考えられないであろうし、ひいては、その分野の優秀な女性研究者を“真剣”に探しはじめるきっかけを与えることにもなろう。

 以上、我々は、今回の遺伝研の例から学んだことに基づいて、女性研究者を増やすシステムづくりとして以下の2点を提案したい。

  助教授PI制度(あるいは若手PI制度)の確立
  人事の公募と応募者における女性比率の公開

 人事に際して一定の数値目標を設けるポジテイブアクションも、女性研究者を増やすシステムとしては有効と考えられるが、上記2項は、それに先立って、あるいは平行しておこなわれてよい方策と考える。

(2005.9)

(※注1:2017年2月、ハイパーリンク先を修正(wwwsoc.nii.ac.jp/mbsj/kyodosankaku → www.mbsj.jp/gender_eq))

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