男女共同参画学協会連絡会 Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering

無意識のバイアス用語集

無意識のバイアスに関連する用語の解説です。
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ピコピコハンマーを持つ猫イラスト

無意識のバイアスのモグラたたき
人事選考委員会や日常会話で、でてくる本音「人事あるあるビンゴ」発言の例を、一部の解説に付けました。全国の参画推進室やEPMEWSE参加学会のメンバー有志から提供されたものです。解説の中にいる「モグラ」をクリックしてみてください。
はずしてみませんか!その無意識のバイアスの色眼鏡

アカウンタビリティ(研究者としての)

アカウンタビリティとは

アカウンティング(会計)とレスポンシビリティ(責任)に由来する1960年代のアメリカ生まれの造語(経済用語)1。権限を持つ人や組織には責任があり、責任を持つ人や組織には方針や考え方を説明する義務があるという考え方。

行政や公共機関は納税者に対して、税金の用途について説明の責任と義務があるとされた。現在では、範囲が広がって、企業に対しても、出資者(株主)に対して、経営状況を説明する義務と責任が求められるようになった。現在ではUN Womenのガイドラインが示すように2、企業のアカウンタビリティは、出資者のみならず、従業員、取引関連企業、地域に対しても、企業のジェンダー平等に関する透明性とともに重要視されている。

「アカウンタビリティ」は、科学技術分野においても普遍化された。多額の資金援助を受ける科学技術研究者は、その研究の意義を説明する義務と責任を負い、一方、多額の資金援助をする国や財団は、その執行に義務と責任を負うとされる。その良い例が、米国国立衛生研究所(NIH)のDirector Pioneer Award (NDPA) Program3の審査基準とトップ (Director) のAccountabilityに見ることができる。NDPAは2004年に始まった大変名誉ある賞で、High Risk / High Impact の革新的研究に取り組む個人研究者を支援する。初年度には約1300人が応募し、その約3割が女性であった。ところが最終的に選ばれた受賞者9名のうちに女性は一人もいなかった。これに対してWisconsin大学のJo Handelsmanを初めとする女性教授たちが、NDPAの選考基準や選考方法が女性研究者にとって不利になっていると科学論文に発表し4、異議を申し立てた。NIHのDirectorは彼女達の要望に応えて、翌年からは選考基準を改めた。その後、NDPA受賞者の女性割合は平均30%で推移している5, 6

日本においても、近年、大学等、教育機関における「アカウンタビリティ」が重要視されている7。特に私学の場合、学費に見合うだけの義務と責任が果たされているか、コロナ下の今、課題とされている8

  1. Wikipedia: 説明責任
    https://ja.wikipedia.org/wiki/説明責任
  2. UN Women
    WEPs Transparency and Accountability Framework(TAF)
    透明性とアカウンタビリティのためのフレームワーク
    日本語版: 公益財団法人笹川平和財団 (2022年1月).
  3. NIH Director's Pioneer Award (PA)
    https://commonfund.nih.gov/pioneer
  4. Molly Carnes, Stacie Geller, Eve Fine, Jennifer Sheridan, Jo Handelsman
    NIH Director’s Pioneer Awards: Could the Selection Process Be Biased against Women?
    Journal of Women’s Health 14, 684 (2005).
  5. 大坪久子
    女性研究者とAccountability
    化学 72 (2) 化学同人 (2017).
  6. WISELI, University of Wisconsin-Madison
    Breaking the Bias Habit – A Workshop to Promote Gender Equality –Guide for Presenters, p76~77.
  7. 社団法人日本私立大学連盟・経営委員会アカウンタビリティ分科会
    私立大学としてのアカウンタビリティの基本方針
    平成21年3月
    https://www.shidairen.or.jp/files/topics/623_ext_03_0.pdf
  8. 土持ゲーリー法一
    オンライン授業とアカウンタビリティ ~いま、大学は何ができるか~
    アルカディア学報 No. 692
    https://www.shidaikyo.or.jp/riihe/research/692.html
  9. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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アマゾンのAI採用

AMAZONのAI採用 (Amazon's AI recruiting tool) とは

AMAZON社が2015-2018年にかけて実施した、AI(artificial intelligence:人工知能)を活用した人材採用システム。 2014年に開発がスタートし、当初は、採用業務の効率化と採用担当者の主観排除が期待されたが、「機械学習は女性を差別する」という欠陥が判明。 2018年10月、AMAZON社は運用停止を発表した1

過去10年分の履歴書パターンを機械学習させ、応募者を5点満点でランク付けする同システムは、例えば、過去の応募のほとんどが男性だった技術職において、「男性を採用することが好ましい」と認識し、 女性というだけで評点を下げるなど、性別の中立性が機能しなかった1

AIは、履歴書解析、応募者の絞り込み、離職予測など、人事アプリケーションとしての重要性が日増しに高まっている。これらの作業を自動化するAIは、一見、偏りがないように見えるが、人が作成したデータに大きく依存し、人に内在する偏りが判断に持ち込まれる可能性がある2。近年は、バイアス軽減プログラムやブラックボックスモデル解釈ツールなど、公平なアルゴリズム構築を目指した開発が盛んに行われている3

  1. Jeffrey Dastin
    Amazon Scraps Secret AI Recruiting Tool That Showed Bias Against Women.
    Ethics of Data and Analytics, Chapter 7.1 (2022).
    eBook ISBN: 9781003278290
    https://doi.org/10.1201/9781003278290
  2. Dena F. Mujtaba, Nihar R. Mahapatra
    Ethical Considerations in AI-Based Recruitment.
    2019 IEEE International Symposium on Technology and Society
    https://doi.org/10.1109/ISTAS48451.2019.8937920
  3. Stewart Black, Patrick van Esch
    AI-Enabled Recruiting: What Is It and How Should a Manager Use It?
    Business Horizons 63, 215-226 (2020).
    https://doi.org/10.1016/j.bushor.2019.12.001
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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インポスター症候群

インポスター症候群 (Impostor syndrome)とは

インポスター症候群は、自分の達成を内面的に肯定できず、自分は詐欺師であると感じる傾向であり、一般的には、社会的に成功した人たちの中に多く見られる。ペテン師症候群(ペテンししょうこうぐん)、もしくはインポスター体験(インポスターたいけん、impostor experience)、詐欺師症候群(さぎししょうこうぐん、fraud syndrome)とも呼ばれる。この言葉は、1978年に心理学者のポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって命名された。

この症候群にある人たちは、能力があることを示す外的な証拠があるにもかかわらず、自分は詐欺師であり、成功に値しないという考えを持つ。自分の成功は、単なる幸運やタイミングのせいとして見過ごされるか、実際より能力があると他人を信じ込ませることで手に入れたものだと考える。インポスター症候群は、特に社会的に成功した女性に多いとする研究もある1

  1. Pauline Rose Clance, Suzanne Imes
    The Imposter Phenomenon in High Achieving Women: Dynamics and Therapeutic Intervention.
    Psychotherapy Theory, Research and Practice 15, 1-8 (1978).

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オールド・ボーイズ・ネットワーク

オールド・ボーイズ・ネットワーク(Old Boys’ Network)とは

オールド・ボーイズ・クラブ(Old Boys’ Club)とも言う。同じ男子校出身者、裕福な上流階級の家庭の男性、高学歴で同じような背景を持った男性などが作る非公式のネットワークのことである。

このネットワークを通じて情報交換をしたり、組織の重要なことを内々に決めたり、職の斡旋などに使われることもある。このため、男性が高収入の高い地位のポストを得やすく1, 2、男女の賃金格差が生まれる要因の一つとなっている可能性もある3

モグラ
  1. Steve McDonald
    What’s in the “Old Boys” Network? Accessing Social Capital in Gendered and Racialized Networks,
    Social Networks 33, 317-330 (2011).
  2. Judith G. Oakley
    Gender-based Barriers to Senior Management Positions: Understanding the Scarcity of Female CEOs
    Journal of Business Ethics 27, 321-334 (2000).
  3. Marie Lalanne, Paul Seabright
    The Old Boy Network: Gender Differences in the Impact of Social Networks on Remuneration in Top Executive Jobs TSE Working Papers, Toulouse School of Economics, No 11-259 (2011).
    http://publications.ut-capitole.fr/960/1/gend_diff_top_executives.pdf
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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科学技術機会均等法(米国)

科学技術機会均等法(Science and technology equal opportunities act)とは

1980年に、アメリカの政策として、 STEM (Science、 Technology、 Engineering and Mathematics 科学・技術・工学・数学)分野の多様性を上げ、女性とマイノリティがその能力を十分に発揮できるように制定された制度1。アメリカ国立科学財団(National science Foundation; NSF )が推進の中核組織となり、女性とマイノリティの進出状況の調査と議会への報告を義務づけた2, 3

具体的には以下の内容が含まれている.

  • 合衆国大統領は、全米科学理事会( National Science Board; NSB)のメンバーに女性とマイノリテイの代表を加えること
  • NSF は、女性とマイノリテイがSTEM分野にさらに広く進出できるように、いくつかのプログラムを創設すること
  • NSFは二年ごとにSTEMにおける女性とマイノリテイ研究者の統計調査を行なうこと
  • 女性とマイノリテイが、STEM分野に広く参画できるように、NSFが努力しているか否かをモニターするために、外部の専門家からなる機会均等委員会(Committee on Equal Opportunities in Science and Engineering:CEOSE)を設置すること

海外や日本における科学技術分野の女性研究者支援政策の現状については財部4、横山ら5の論文を参照されたい。

  1. PUBLIC LAW 96-516—DEC. 12, 1980
    https://www.govinfo.gov/content/pkg/STATUTE-94/pdf/STATUTE-94-Pg3007.pdf
    (United States Government Publishing Office が運営する米国政府情報検索サイトgovinfo(https://www.govinfo.gov/)よりダウンロード)
  2. 大坪久子
    米国科学財団(NSF)による女性研究者支援事業(ADVANCE)河野 銀子・小川眞里子 編著 「女性研究者支援政策の国際比較 日本の現状と課題」 第5章 pp 50-67 (2021).
  3. 男女共同参画局理工系分野における女性活躍の推進を目的とした関係国の社会制度・人材育成等に関する比較・分析調査報告書 (2016).
    https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/riko_comp_research.html
  4. 財部香枝
    米国における女性研究者の実態と支援政策に関する聞き取り調査
    「貿易風―中部大学国際関係学部論集―」 第14号, 86-96 (2016).
  5. 横山美和, 大坪久子, 小川眞里子, 河野銀子, 財部香枝
    日本における科学技術分野の女性研究者支援政策―2006年以降の動向を中心に
    ジェンダー研究 第19号 (2016).
  6. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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女性研究者自身の過小評価

女性研究者自身の過小評価(Underestimation)とは

女性研究者には、往々にして、男性研究者に比べて、自分の能力に自信を持てない状況(過小評価)がみられる。これは世界共通の課題だが、アメリカ化学会の重鎮、Celeste M. Rohlfingは、その要因を下記のように分析、列挙している1

要因1)無意識のバイアス:無意識のうちに染みついたジェンダーバイアス。科学技術は男性のもの、女性はリーダーには向いていない、等々の根拠のない思い込み。

要因2)マイクロ・アグレッション: 女性はITが苦手、機械が苦手など、日常の軽い冗談や皮肉、些細な嫌がらせであっても、蓄積されれば自信を失わせ、差別につながってゆく。

要因3)ステレオタイプ・スレット:既存のジェンダー・ステレオタイプに縛られて、能力を発揮できなくなる事象。

要因4)インポスター症候群:自分の成功を自分の能力によるものと肯定できない状況。成功は何かの間違い、単に運が良かっただけと考えて、能力があるにもかかわらず、自信を失くし鬱状態におちいる。

これらは、長期にわたって、科学技術分野における女性の過小評価をもたらす要因となってきた。このような不平等の蓄積が、女性研究者の能力発揮を阻害してきたと言える。たとえば、論文のauthorship、上位職への挑戦、研究者としての独立、大型研究費の応募、賞の推薦、等々、ステップアップすべきところで、能力がありながら自己を過小評価して、みすみす機会を逃してしまうことはよく見られた例である。

過小評価の結果の例として、女性が大型研究費への挑戦を控えることがよく挙げられる。確かに現状は、研究費が大型になるほど、女性の応募比率が低くなる2, 3。これは、職位が高位でないと大型予算に挑戦しにくいが、職位が上がるほどに女性比率が低下することの反映で、女性研究者自身の過小評価と(男性)審査員のジェンダーバイアスがこの傾向に拍車をかけていると言えよう。

モグラ
  1. Celeste M. Rohlfing
    化学の世界にもっと女性リーダーを:米国の視点から
    国際周期表年IYPT2019 特別寄稿, 化学と工業 72, 325 (2019).
  2. 玉田 薫, 和賀三和
    理工系分野女性研究者の活躍促進に向けて:日米の事例から将来を展望する
    表面と真空 63 (6), 314–317 (2020).
    https://doi.org/10.1380/vss.63.314
  3. 日本学術振興会
    科研費データ
    (6) 研究種目別・男女別配分状況一覧
    https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/27_kdata/index.html
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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ゴールドバーグ・デザイン

ゴールドバーグデザイン(Goldberg design)とは

1968年に心理学者Philip Goldbergは最初の無作為実験を行なった1。その実験内容は、筆者の名前が男性名 (John T. McKay)もしくは女性名 (Joan T. McKay)で記載された全く同じ内容のエッセイを課題として学生に読ませたもので、その結果、エッセイの著者が男性名か女性名かによって学生が評価を変えたというものである。この実験の枠組みは、のちにゴールドバーグデザインと名付けられた。

現在までにゴールドバーグデザインを使ったバイアスの実験報告が数多く発表されている。報告例として、経歴は全く同じ、能力も全く同じで名前だけを変えた(典型的な白人名と典型的な黒人名)履歴書を作成し、雇用者候補に送付し、どちらの場合が面接を受けるチャンスが多かったかを調べたものがある2。 その結果、1回の面接のチャンスを手にするには、白人名の場合は10通、黒人名の場合はその1.5倍くらい履歴書を送らねばならないことがわかった。つまり、雇用者側は、履歴書の名前だけで白人か黒人かを判断し、無意識のうちに白人の方に雇用の機会を多く与えていたということである。

また、全く同じ内容で、名前だけを男性名を女性名にした履歴書を作成し、アメリカ中の研究大学院大学の理学部の男女の教授100人に送り、ラボマネージャーとしてどちらを雇いたいかを尋ねた実験もゴールドバーグデザインを用いた実験の一つである3。教員による学生の評価は、能力、雇用の可能性、給与については、男性の方が有意に高い結果となった。メンターの機会提供も男性学生の方が多かった。男性教員だけでなく、女性教員も男子学生の方を有利に判断している結果となった。

  1. Philip Goldberg
    Are Women Prejudiced against Women?
    Transaction 5, 316-322 (1968).
  2. Marianne Bertrand, Sendhil Mullainathan
    Are Emily and Greg more employable than Lakisha and Jamal? A Field Experiment on Labor Market Discrimination University of Chicago Graduate School of Business, NBER and CEPRMIT and NBER (2004).
  3. Corinne A. Moss-Racusin, John F. Dovidio, Victoria L. Brescoll, Mark J. Graham, Jo Handelsman
    Science Faculty’s Subtle Gender Biases Favor Male Students.
    Proceedings of the National Academy of Sciences U. S. A. 109, 16474-16479 (2012).

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錯視

錯視(Optical illusion)とは

視覚における錯覚のこと。同じ大きさの図形でも、周りに置かれる物によって大きく見えたり、小さく見えたりする幾何学的錯視としてエビングハウスの錯視 (図1)が有名1。 また、同じ色の図形でも周りの色によって異なる色に見える、色彩に関する錯視(図2)も知られている2

錯視は、経験則に基づいたアルゴリズムによって視覚情報が脳内で無意識的に処理されることによって、間違ったものの見方をしてしまうために起こるとされる。 人の思考において、経験則や思い込みにもとづく「無意識のバイアス」が入り込むことを知らしめる好例として用いられる。

  1. Hermann Ebinghaus
    The American journal of psychology 13, 169 (1902).
  2. Charles Chubb, George Sperling, Joshua A. Solomon
    Texture Interactions Determine Perceived Contrast
    Proceedings of the National Academy of Sciences U. S. A. 86, 9631–9635 (1989).

 

図1 エビングハウスの錯視 図2 チャブ錯視
図1 エビングハウスの錯視 図2 チャブ錯視
主観的コントラストが周辺部に依存して知覚される錯視である。この図では、暗い輝度の背景上にある長方形Aの輝度が、明るい背景上の同じ色の長方形Bの輝度よりも高いと知覚される。

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ジェンダー

ジェンダー(Gender)とは

ジェンダー(gender)の科学的定義はない1。生物学的な性別(sex)に対して、社会的・文化的に形成される性別2, 3のこととして使われることが多い。生物学的な性別や女性と同義語として使われることもある。

性自認(gender identity)とは、その人が、男性、女性、あるいは、そのどちらでもないという自己認識のことであり、生物学的性別と異なることもある。性自認やジェンダー表現(服装、髪型等)が、出生時の性別と異なる場合、トランスジェンダー(transgender)、出生時の性別と性自認が一致している場合、シスジェンダー(cisgender)と呼ぶ1

ジェンダー規範(gender norm)とは、ある社会において、女性、男性が、それぞれどのようにふるまうべきかという考えのことである。ジェンダー規範に従うことができないために、不利な扱いを受けたりする場合がある。

ジェンダー・エクイティー(gender equity)は、ジェンダー平等(gender equality)を達成するための方法・過程である。gender equalityとの概念の違いを説明するために、背の低い人も背の高い人と同様に木になっている果物を取れるように踏み台を使うという絵が良く用いられている(図1)。

ジェンダー平等に関する国際的な指数としては、ジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index: GGI)、ジェンダー開発指数(Gender-related Development Index: GDI)ジェンダー不平等指数(Gender Inequality Index: GII)などがある4

モグラ
図1 EqualityとEquity
図1 EqualityとEquity
  1. Biff F. Palmer, Deborah J. Clegg
    A Universally Accepted Definition of Gender Will Positively Impact Societal Understanding, Acceptance, and Appropriateness of Health Care,
    Mayo Clinic Proceedings 95, 2235-2243 (2020).
  2. Shirin Heidari, Thomas F. Babor, Paola De Castro, Sera Tort, Mirjam Curno
    Sex and Gender Equity in Research: Rationale for the SAGER Guidelines and Recommended Use.
    Research Integrity and Peer Review 1:2 (2016).
    https://researchintegrityjournal.biomedcentral.com/track/pdf/10.1186/s41073-016-0007-6.pdf
  3. Jacqueline D. Lau
    Three Lessons for Gender Equity in Biodiversity Conservation
    Conservation Biology 34, 1589-1591 (2020).
    https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/cobi.13487
  4. Melinda Mills
    Gender Roles, Gender: (In) Equality And Fertility: An Empirical Test of Five Gender Equity Indices
    Canadian Studies in Population 37, 3-4, 445-474 (2010).
    https://journals.library.ualberta.ca/csp/index.php/csp/article/view/16050/12855
  5. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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ステレオタイプ・スレット

ステレオタイプ・スレット(Stereotype threat)とは

自分が所属する社会集団注1)について、ネガティブなステレオタイプ注2)が当てはまる状況にある時、あるいはその状況で何かをするときに発生する心理的脅威。ネガティブなステレオタイプの影響により、その領域でのパフォーマンスの低下や願望が叶えられないかもしれないと脅威に感じること。また、自分の所属する集団についてのステレオタイプに自分の特性も合わせなければならないとプレッシャーを感じること。

ステレオタイプ・スレットについての研究は20年以上前から行われている。スティールがミシガン大学の学生を対象に行った研究では、アフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人の間や、女性と男性の間のテストスコアの差にネガティブなステレオタイプが影響する可能性が示された1, 2。例えば、優秀な学生に難解な数学の問題を解かせる際に、テスト前に自分の性別を選択させると女性被験者の正解率が男性よりも下がった。一方、テスト前に「数学のテスト結果には性差がない」ことを伝えるだけで女性被験者のパフォーマンスは低下しなかったという2。これは「女性は数学が不得意である」というステレオタイプがあり、それに対する脅威や懸念を無意識のうちに感じることがパフォーマンスに影響していると考えられた。

これまでの300を超える実験により、それぞれの社会集団におけるネアティブなステレオタイプ・スレットが、知能、記憶、メンタルローテーション、数学テスト、ゴルフパッティング、運転、育児スキルなどのパフォーマンスの低下に影響していることが示されている3

  • 注1)ここでの社会集団とは、ジェンダー、人種・国籍、宗教、地域性などの属性が同じ集団のこと。例えば、日本人、女性、若者など。
  • 注2)多くの人に浸透している固定概念や思い込みのこと。人種、国籍、性別など、特定の属性の人々に対する過度に一般化・単純化されたイメージ。
モグラ
  1. Claude M. Steele, Joshua Aronson
    Stereotype Threat and the Intellectual Test Performance of African Americans
    Journal of Personality and Social Psychology 69, 797–811 (1995).
    https://doi.org/10.1037/0022-3514.69.5.797
  2. Steven J. Spencer, Claude M. Steele, Diane M. Quinn
    Stereotype Threat and Women's Math Performance
    Journal of Experimental Social Psychology 35, 4–28 (1999).
    https://doi.org/10.1006/jesp.1998.1373
  3. Charlotte R. Pennington, Derek Heim, Andrew R. Levy, Derek T. Larkin
    Twenty Years of Stereotype Threat Research: A Review of Psychological Mediators
    PLoS ONE 11, e0146487 (2016).
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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ダイバーシティ

ダイバーシティ(Diversity)とは

多様性や違いを意味する。特に、個人の属性を表す語としてダイバーシティは汎く使われている。

ダイバーシティの概念は時代によって変遷してきており、もともとは、1960年代に米国雇用機会均等委員会(EEOC)が規定するように、ジェンダー、人種、民族、年齢における違いのことをさしていた。時代が進むにつれ、この伝統的な定義に加え、居住地や家族構成、習慣などのあらゆる属性を含むようになり、より包括的な概念になっている1

1990年代以降になると、組織のパフォーマンスを向上させることを目的としたダイバーシティ・マネジメントという考えが形作られていく。ダイバーシティ・マネジメントとは多様性を活かして事業を成長させ、組織を強化しようとする施策のことである。様々な属性の人が組織の中に混在しているダイバーシティだけでは不十分であり、多様な属性の人を受け入れ尊重すること (Diversity & Inclusion) がダイバーシティ・マネジメントにおいて重要である2, 3

科学技術・学術分野においても、多様性の確保は重要であり、問題の発見と解決に多様な経験と多様なアプローチが存在することで、創造性が高まりイノベーションにつながるとされる。科学技術・学術分野における多様性とは、ジェンダーや人種エスニシティの多様性だけではなく、理科系と人文社会学系との融合や横断的研究の推進などによる知の多様化も含まれる4

  1. 谷口真美
    ダイバシティ・マネジメント
    白桃書房 (2005).
    ISBN-10 45611234411
    ISBN-13 978-4561234418
  2. 森 朋子
    大学における「ダイバーシティ&インクルージョン教育」の重要性
    東京家政学院大学紀要 第58号 19–27 (2018).
  3. 中村 豊
    ダイバーシティ & インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義
    高千穂論叢 52巻 1号 53–82 (2017).
  4. 河野 銀子, 小川 眞里子, 横山 美和, 大坪 久子, 大濱 慶子, 財部 香枝
    女性研究者支援政策の国際比較
    明石書店 (2021).
    ISBN-10 4750353027

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偽物症候群

偽物症候群(Imposter syndrome)とは

自分の成功が自分の実力によるものだという自信が無く、不当な地位を与えられているのではないか、あるいは実力がばれて詐欺師扱いされるのではないかと恐れ悩むことを偽物症候群と呼ぶ。

臨床心理学者のポーリーン・クランスとスザンヌ・アイムズが1978年に「インポスター現象」(imposter phenomenon)と言及したのが初出である1。 この論文では、セラピーや大学の授業で関わった150人以上の成功した女性たちの間で上述の態度や不安や抑うつ傾向が見られたと報告された。これらの現象と幼少期の経験との関連性が示唆され、治療的介入が提案されるなどした。クランスが1985年に出版した大衆向け書籍「The Impostor Phenomenon」2により心理学的な研究が盛んになり、自己啓発本やビジネス書などで広く言及されるようになったが、その一方でアメリカ精神医学会の定める精神障害の診断・統計マニュアルには記載が無い3。女性やマイノリティにより顕著に見られる現象であり、燃え尽き症候群との正の相関も指摘されている4

  1. Pauline Rose Clance, Suzanne Ament Imes
    The Impostor Phenomenon in High
    Achieving Women: Dynamics and Therapeutic Intervention
    Psychotherapy: Theory, Research, and Practice 15, 241–247 (1978).
  2. Pauline Clance
    Imposter Phenomenon
    Bantam (1986).
    ISBN-10 0553257307
    ISBN-13 978-0553257304
  3. Katherine Hawley
    I-What Is Impostor Syndrome?
    Aristotelian Society Supplementary Volume 93, 203–226 (2019).
    https://doi.org/10.1093/arisup/akz003
  4. Jennifer A. Villwock, Lindsay B. Sobin, Lindsey A. Koester, Tucker M. Harris
    Impostor Syndrome and Burnout among American Medical Students: A Pilot Study.
    International Journal of Medical Education 7, 364-369 (2016).
  5. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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バックラッシュ

バックラッシュ(Backlash)とは

英語で「反動」や「揺り戻し」を意味する語句である。「ジェンダー平等(男女共同参画、ジェンダーフリー、男女平等、フェミニズムなど)の施策がすすむことに対する組織的な反撃や攻撃のこと。個人がこのバックラッシュをおそれることにより、社会の中でジェンダー・ステレオタイプが強化されていく1, 2

日本においては1985年に男女雇用機会均等法、1999年に男女共同参画社会基本法、2001年に配偶者暴力防止法がつくられた。しかし20世紀の終わりに、このような流れに対抗するバッシングが盛んになり、それぞれにおいて保守的な論陣が登場した。それらが今日のバックラッシュのルーツと見なしうるものである。

モグラ
  1. 細谷 実 
    男女共同参画に対する最近のバックラッシュについて 
    We learn 8月号研究レポート(2003).
  2. Laurie A. Rudman, Corinne A. Moss-Racusin, Julie E. Phelan, Sanne Nauts
    Status Incongruity and Backlash Effects: Defending the Gender Hierarchy Motivates Prejudice Against Female Leaders
    Journal of Experimental Social Psychology 48, 165-179 (2012).

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母親ペナルティ

母親ペナルティ(Motherhood penalty)とは

主に就労している母親の賃金格差や雇用・昇進における不利益を指し、子持ちの男性や子どもを持たない独身・既婚女性と比較した場合に、子持ちの女性が一般に低評価を受ける、あるいは雇用に関して悪条件を強いられることが知られる1, 2

女性は、家事や子育てを優先し職業キャリアを中断することで、蓄積された人的資本が減価することが背景としてある。母親ペナルティは欧米の研究で提唱された概念だが、同種の問題は日本でも指摘されており、シングルマザーの貧困問題や雇用の際の不利益などがこれで説明される3。一方、大学の図書館員・司書を対象とした子持ち女性と子どもを持たない女性の比較では、給与や処遇に明確なペナルティは無かったとする米国の研究もあり4、職種や所属する機関によって状況が異なる可能性はある。

母親ペナルティは、子持ちの女性が育児と仕事の板挟みとなることで家族や職場の人間関係に対して「自分が至らないせいで迷惑をかけている」などと感じる自責の念とは異なる。また、子どもが事件を起こした場合や事故に巻き込まれた場合などに、母親の方が父親より多く非難される、いわゆる「母親バッシング」とも別物の概念である。

  1. Shelley J. Correll, Stephen Benard, In Paik
    Getting a Job: Is There a Motherhood Penalty?
    American Journal of Sociology 112, 1297-1339 (2007).
  2. Tamar Krichel-Katz
    Choice, Discrimination, and the Motherhood Penalty
    46 Law & Soc'y Rev. 557 (2012). https://ssrn.com/abstract=3480513
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3480513
  3. 斉藤 知洋
    シングルマザーの正規雇用就労と経済水準への影響
    家族社会学研究, 32, 20-32 (2020).
    Online ISSN 1883-9290, Print ISSN 0916-328X
    https://doi.org/10.4234/jjoffamilysociology.32.20
  4. Heather Kelley, Quinn Galbraith, Jessica Strong
    Working Moms: Motherhood Penalty or Motherhood Return?
    The Journal of Academic Librarianship 46, 102075 (2020).
    https://doi.org/10.1016/j.acalib.2019.102075.
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ハラスメント

ハラスメント(Harassment)とは

広辞苑において、ハラスメントは「人を悩ますこと。優越した地位や立場を利用した嫌がらせ。」と記されている1。同じく広辞苑において、嫌がらせは「相手のいやがることを、わざわざ言ったりしたりすること。」1 と記され、英単語はあてられていない。類義語としてのいじめ(苛め)は、広辞苑において「いじめること。弱い立場の人に言葉・暴力・無視・仲間外れなどにより精神的・身体的苦痛を加えること。」1と記されている。

英単語【harassment】は「Harassment is behavior which is intended to trouble or annoy someone, for example repeated attacks on them or attempts to cause them problems.(和訳:ハラスメントとは、誰かに迷惑をかけたり、困らせたりすることを目的とした行動で、例えば、繰り返し攻撃したり、問題を起こそうとしたりすることを指す。)」2 となっている。このことから、日本語でハラスメントと記した際の意味や定義に一定の方向性は認められるものの厳密な定義は見出しにくい。

学校法人 大阪医科薬科大学では、「ハラスメント(Harassment)とはいろいろな場面での『嫌がらせ、いじめ』を言います。その種類は様々ですが、他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えることを指します。」と記し、国立大学法人一橋大学では「ハラスメントとは、人間としての尊厳を侵害する行為であり、人に対する思いやりと敬意を欠いた行為です。他の者に肉体的、精神的な苦痛や困惑、不快感などを与えることです。ハラスメントの中にはセクシュアル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、パワー・ハラスメント、アルコール・ハラスメントなどがあります。またそれらが複合した形態のハラスメントもあります。」と記している。

一般的に良く知られているハラスメントには、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、アカデミックハラスメント、アルコールハラスメント等がある。このように複数存在するハラスメントのうち、「職場におけるパワーハラスメント」については、令和2年厚生労働省告示第5号において、法的な観点から職場におけるパワーハラスメントの内容、事業主等の責務、事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し行うことが望ましい取組の内容、事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容、事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容、が具体的かつ詳細に明記されている。

「職場におけるセクシャルハラスメント」についても、平成18年厚生労働省告示第615号において、法的な観点から職場におけるセクシャルハラスメントの内容、事業主等の責務、事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容、他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力、が具体的かつ詳細に明記されている。

身近な言葉となったハラスメントであるが、ハラスメントが保持する意味の広さからそれそれらを論じる際には、その範囲を求められる場合が多く想定される。

  1. 広辞苑 第七版
    岩波書店 (2018).
    ISBN-10: 4000801317
    ISBN-13: 978-4000801317
  2. Cobuild English Language Dictionary 2nd Edition : Helping Learners with Real English (Cobuild Series),
    Collins UK Staff, Collins Reference (1996).
    ISBN-10: 0003750299
    ISBN-13: 978-0003750294

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ハロー効果

ハロー効果(Halo effect)とは

社会心理学の用語で、光背効果、後光効果ともいう。ハローとは神や仏の像に描かれる後光のことである。ある対象を評価するときに、それが持つ著しい特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められるという認知バイアスのことである。

ハロー効果という言葉は1920年に心理学者Edward L. Thorndikeが書いた論文で初めて使用された1。例えば、身長や容姿が賢さや誠実さと相関しているという論理的な理由はないが、背が高い、または見た目が魅力的な人は知的で信頼できる人と認識されることである。

ハロー効果は正負両方の方向に働く。評価対象者の持つ良い点を根拠に、他者について実際以上の高評価をしてしまう場合、また評価対象者の持つ悪い点を根拠に、対象者について悪い評価をしてしまう場合がある。

ハロー効果に関する心理学的実験がいくつかある2-4。そのうちの一つは、魅力的な女性と一緒にいる男性は、魅力的でない女性と一緒にいる男性に比べ、好意的に見られたという結果の実験である。

  1. Edward L. Thorndike (1920)
    A Constant Error in Psychological Ratings
    Journal of Applied Psychology 4, 25–29 (1920). https://doi.org/10.1037/h0071663
  2. Harold Sigall, David Landy
    Radiating Beauty: Effects of Having a Physically Attractive Partner on Person Perception
    Journal of Personality and Social Psychology 28, 218–224 (1973).
    https://doi.org/10.1037/h0035740
  3. Richard E. Nisbett, Timothy D. Wilson
    The Halo Effect: Evidence for Unconscious Alteration of Judgments
    Journal of Personality and Social Psychology 35, 250–256 (1977).
    https://doi.org/10.1037/0022-3514.35.4.250
  4. Jakob Nielsen, Jen Cardell
    Halo Effect: Definition and Impact on Web User Experience
    Nielsen Norman Group (November 9, 2013)
    https://www.nngroup.com/articles/halo-effect/
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プライミング効果

プライミング効果(Priming effects)とは

先に受けた刺激によって無意識的に脳内の情報処理が影響を受け、後続の刺激に対して応答が早まる/強まる/特定の方向にシフトするといった行動変容に繋がる心理効果をプライミング効果と言う1

例えば、あるイメージを見た後では、そのイメージから連想される単語を選びがちである。また自分の性別(女性)を意識させられる条件づけを受けた後で得意科目・苦手科目に対する意識調査を行うと、性別のステレオタイプ(ex。数学は苦手)に合致する方向に回答が変わったという研究もある2。経験則が無意識下で思考判断に影響することで、咄嗟の素早い判断を可能にすると同時に、偏見を社会的に助長・再生産してしまうメカニズムの一つとされる。

これら心理学的な用法とは別に、生態学分野でもprimingという概念が知られる。例えば土壌学では、植物に予め窒素を与えると、より窒素を吸収しやすくなるといった例が知られる3。また生物の免疫応答にもprimingという概念があり、植物が身近な同種他個体が食害を受けていることを化学シグナルで受容すると、同様の被害に対してより短期間で強い防御応答を示す例4などが当てはまる。

  1. E. Tory Higgins, John A. Bargh, Wendy Lombardi
    Category Accessibility and Impression Formation.
    Journal of Experimental Social Psychology 13, 141-154 (1977).
    https://acmelab.yale.edu/sites/default/files/1985_nature_of_priming_effects_on_categorization.pdf
  2. Jennifer R. Steele, Nalini Ambady
    “Math is Hard!” The Effect of Gender Priming on Women’s Attitudes.
    Journal of Experimental Social Psychology 42, 428-436 (2006).
    ISSN 0022-1031
    https://doi.org/10.1016/j.jesp.2005.06.003.
  3. Yakov Kuzyakov, Jürgen Kurt Friedel, Karl Stahr
    Review of Mechanisms and Quantification of Priming Effects
    Soil Biology and Biochemistry 32, 1485-1498 (2000).
    ISSN 0038-0717
    https://doi.org/10.1016/S0038-0717(00)00084-5.
  4. Juergen Engelberth, Hans T. Alborn, Eric A. Schmelz, James H. Tumlinson
    Airborne Signals Prime Plants Against Insect Herbivore Attack
    Proceedings of the National Academy of Sciences U. S. A. 101, 1781-1785 (2004).
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米国国立科学財団

米国国立科学財団(NSF)とは

米国国立科学財団 (National Science Foundation、 NSF) は、1950年に議会によって設立された独立した連邦機関であり、「科学の進歩、国の健康、繁栄、福祉を促進し、国防を確保する等」、基礎研究と人々が未来を変える知識を生み出すことを支援する組織である1。支援には、米国経済の主要な推進力になる、米国の安全を強化する、グローバルなリーダーシップを維持するための知識の進歩、がある。

NSFの年間予算は85億ドル(2021年度)であり、米国の大学で実施される基礎研究のための連邦予算全体の約27%の資金源となっている。数学、コンピューターサイエンス、社会科学などの多くの分野で、NSFは連邦政府の支援の主要な支援機関である。NSFは主に、厳格で客観的な審査によって最も有望であると判断された特定の研究提案に資金を提供するため、期間限定の助成金(現在、年間約12、000の新しい賞、平均期間3年)を拠出している。これらのほとんどは、個人または研究者の小グループに贈られている。また、科学者、エンジニア、学生が知識の最前線で働くことを可能にする研究センター、機器、施設に資金を提供する研究も含まれる。

NSFは、その目標である発見、学習、研究基盤、知識のフロンティアを前進させ、世界クラスの広く包括的な科学および工学の人材を育成し、すべての市民の科学リテラシーを拡大し、国の研究を構築するための統合戦略を提供する。また、高度な機器と設備への投資、有能で応答性の高い組織を通じて、科学と工学の研究と教育における卓越性を支援している。NSFは「発見が始まる場所」を目指しており、NSFの資金提供を受けた研究者は、236のノーベル賞を含め数多くの賞を獲得している。

NSFは、科学者やエンジニアが必要とする機器にも資金を提供している。主要な研究機器の例として、巨大な光学望遠鏡や電波望遠鏡、南極の研究施設、ハイエンドコンピューター設備と超高速接続、海洋研究用の船舶、極微細な物理現象検出可能な高感度機器、重力波観測所などがある。さらに、幼稚園前から大学院まで、そしてそれ以降の科学と工学の教育を支援している。NSFが資金提供する研究は教育と完全に統合され、新しい科学、工学、技術分野で働く熟練した人材と、次世代を教育するための有能な教育者を数多く育成している。

  1. 米国国立科学財団(NSF) 公式ホームページ
    https://www.nsf.gov/
  2. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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ポジティブアクション

ポジティブ・アクション(Positive action)とは

社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者(女性や人種的マイノリティなど)に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のこと1-3。アファーマティブ・アクションとも言う。

1979年に国連総会で採択され1980年に発効した「女子差別撤廃条約」(日本は1985年に批准)には、こうした暫定的な特別措置は差別にあたらないと明記されている。男女の格差の解消、女性の雇用促進のために諸外国では様々な分野で法制化を含めた取り組みが行われている。

実質的な機会均等の実現を図るための具体的手法としては、参画すべき女性の人数や割合を強制的に割り当てるクオータ制、能力が同等である場合に女性を優先的に採用するプラス・ファクター方式、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示してその実現を目指すゴール・アンド・タイムテーブル方式、女性の参画の拡大を図るための基盤整備を推進する方式などが挙げられる。

モグラ
  1. 内閣府男女共同参画局ホームページ
    https://www.gender.go.jp/policy/positive_act/index.html
  2. コトバンク, 日本大百科全書(ニッポニカ)
  3. 公益財団法人 日本女性学習財団ホームページ
    https://www.jawe2011.jp/
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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マイクロアグレッション

マイクロアグレッション(Microaggression)とは

疎外された集団(人種的少数派など)の構成員に対する偏見に満ちた態度を、微妙に、多くの場合、無意識に、あるいは意図せずに表明するコメントや行動のこと1。もともと、アフリカ系アメリカ人との仕事において、1970年にチェスター・ピアスにより提唱されたものだが、2000年にデラルド・ウイン・スーにより再定義され、ジェンダーを含むあらゆる社会的に阻害された集団が対象となった2

相手を無視する、話を遮る、嫌がらせする、一人前に扱わない、自分の考えを押し付ける等の行為もマイクロアグレッションであり、蓄積されれば、深刻ないじめやハラスメントにつながる。例えば、褒め言葉のように聞こえる「日本語がお上手ですね」、「どうやってそんなに数学が得意になったんですか?」も、それぞれ外国人や女性に対して使われると、外国人はよそ者、女性は数学が得意ではないというメッセージにつながる。女性社員が会議でアイディアを出し、男性CEOがそれに反応しなかったり聞こえなかったふりをしたりするのは、女性の貢献が男性よりも低いというメッセージとなる。男女混合の会話では女性の意見が多く遮られるという研究結果もある3。NBC主催の番組Commander-in-Chief Forumでのドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン氏の対談では、男性モデレーターがクリントン氏の方に多く口を挟み、より難しい質問をした4

  1. Merriam-Webstar dictionary “microagression”
    https://www.merriam-webster.com
  2. Derald Wing Sue, Christina M Capodilupo, Gina C Torino, Jennifer M. Bucceri, Aisha M. B. Holder, Kevin L. Nadal, Marta Esquilin
    Racial Microaggressions in Everyday Life: Implications for Clinical Practice
    American Psychologist 62, 271–286 (2007).
  3. Adrienne Hancock, Benjamin A. Rubin
    Influence of Communication Partner’s Gender on Language
    Journal of Language and Social Psychology 34, 46-64 (2014).
  4. Francesca Gino
    Why Hillary Clinton gets interrupted more than Donald Trump
    Harvard Business Review (2016).
    https://hbr.org/2016/09/why-hillary-clinton-gets-interrupted-more-than-donald-trump
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マイノリティー

マイノリティ(Minority group)とは

社会的少数者のこと。英語のminority groupの考え方を輸入したもので、日本ではgroupを省略して単にマイノリティと呼ばれる。本来の定義では、慣習、人種、宗教、民族、その他の特徴が、それらの分類の主要グループよりも数が少ない人々の集団を指す。しかし、現在の社会学では、主要グループの構成員と比較して相対的に不利益を被る少数派グループのことを意味する。

マイノリティの種類として下記が挙げられる。

  • 少数民族
  • 性的少数者
  • 障害者
  • 病者
  • 子供
  • 老人
  • 外国人
  • 移民
  • 貧困層
  • 被差別地域
  • 宗教的少数者

ダイバーシティマネジメントの観点からマイノリティは受容されるべき存在とされ、こと科学技術・学術分野について、熊谷晋一郎はサンドラ・ハーディングの著書を引用しながら下記のように述べている1

著名な科学哲学者であるサンドラ・ハーディング(Sandra G. Harding 1935–)は、フェミニズム現象学の立場から、健常な白人男性を中心に組織された科学者コミュニティの中で作り出される知識は、弱い客観性(weak objectivity)しかもたないと主張した。従来抑圧されてきた 人々―女性、民族的マイノリティ、障害者や病者など―が参入してはじめて、科学者コミュニティは強い客観性 (strong objectivity)を生み出せるようになると彼女は主張している2。 また、究極的にはダイバーシティ・マネジメントを超越し、マイノリティが自然に受け入れられる社会が望まれる。

  1. 熊谷晋一郎
    マイノリティが研究に参加する意味
    化学と教育 64巻6号 276–279 (2016).
  2. サンドラ・ハーディング, 森永 康子 (翻訳)
    科学と社会的不平等―フェミニズム, ポストコロニアリズムからの科学批判, 北大路書房(2009).
    ISBN-10 4762826782

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マタイ効果(マシューズ効果)

マタイ効果(Matthew effect)とは

複数の研究者が共同で、または独立した研究者が同時期に同じ発見をした場合に、著名な研究者が無名の研究者よりも独創性を認められ,それに対する対価物として与えられる承認をより多く得る傾向を指す。

1968年の「マタイ効果論文」で社会学者ロバート・マートンによって提唱され、聖書のマタイによる福音書に因んで命名された1

そこでイエスは答えて言われた、「あなたがたには、天国の奥義を知ることが許されているが、彼らには許されていない。おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。
(マタイによる福音書13:11-12)

科学者の発表論文の数、論文の引用数、学会や財団から授与される賞など、科学上の承認や報賞が不平等に配分されていることはよく知られている。マートンの「マタイ効果」の概念は、このような現象を説明するのに有効な概念とされている。マートンによれば、科学者の世界の原則は、新しいデータを収集し、それを説明する法則・定理や新しい解釈を発見することが目標であり、成果のオリジナリティを最も重視するため、個人の先取権の承認が最大の関心事となる。本来は、新しい発見に最初に貢献した人が対価物として「先取権論文」という形で承認を獲得し、達成した貢献に応じてなんらかの報賞や地位が与えられるはずであるが、実際には報賞の配分で不平等が生じていることを、マートンは科学史上の事例やノーベル賞受賞者たちのインタビューでの発言を例にとって、「マタイ効果」の概念で説明した。そして、報賞の配分におけるマタイ効果には大きく分けて二つのケースがあることを指摘した。一つは共同研究で見られるケースで、若い大学院学生や助手が実質的な貢献をしていても、共著者として名を連ねる指導教授に他の学者たちから信任や栄誉が与えられる例である。もう一つのケースは、独立した複数の研究者が同じ発見をなし同じ時期に発表した場合に、無名であった研究者には先見性が認められず、著名な研究者にのみ栄誉が与えられるという例である。マートンが例として挙げたノーベル賞受賞者のような科学エリートだけではなく、より一般的な科学者の場合にもマタイ効果の影響が顕著にみられることが、その後、多くの社会科学的調査研究によって明らかにされている2

またマートンは、マタイ効果が科学コミュニティー全体に影響を及ぼし、著名な研究者の論文のほうが受理されやすく研究費も獲得しやすいという不均衡をもたらすことも述べている。そして、科学コミュニティーでの称賛の声が著名な研究者の自信を増大させ、より多くの業績を生み出す傾向につながると言及している。

女性研究者から功績を搾取した著名な男性研究者の多くは、マチルダ効果に加えてマタイ効果の両方の影響下でその恩恵に浴してきた。例えば、マチルダ効果の表1に挙げたネッティー・スティーブンズのケースにおけるトーマス・ハント・モーガンや、ジョスリン・ベル・バーネルのケースにおけるアントニー・ヒューイッシュとマーティン・ライルはそれらの典型的な事例である。

  1. Robert K. Merton
    The Matthew Effect in Science.
    Science 159: 56–63 (1968).
  2. 山崎 博敏
    科学における報賞の分布と配分― 日本の化学を例にして―
    教育社会学研究第38集113-121 (1983).

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マチルダ効果

マチルダ効果(Matilda effect)とは

女性科学者の業績が認められず、その仕事が他の男性に帰されてしまうバイアスを指す。この効果は、婦人参政権論者で奴隷廃止論者であったマチルダ・ジョスリン・ゲイジ(1826年 - 1898年)により、最初に言及された1

科学史研究者マーガレット・W・ロシターはマチルダ・ジョスリン・ゲイジに敬意を表し、この概念を表す用語を「マチルダ効果」と命名した2。スタンフォード大学医学部の神経生物学者で、女性から男性へと性別を転換したベン・バリズ教授は、その時の自身の性別によって科学的業績の見られ方が異なり、同じ個人であってもアイデンティティが異なるとバイアスが生じることを証言している3。また、米国では学術研究において、科学的な賞の受賞に関して女性が不利益を受け続けていることが、統計分析で明らかにされている4-6。マチルダ効果を示す19世紀から20世紀の事例を表1に挙げる。

  1. Matilda Joslyn Gage
    Woman as Inventor
    The Matilda Joslyn Gage Foundation (1870).
    https://iiif.lib.harvard.edu/manifests/view/drs:2575141$21i
  2. Margaret W. Rossiter
    The Matthew Matilda Effect in Science
    Social Studies of Science 23, 325-341 (1993).
  3. Shankar Vedantam
    Male Scientist Writes of Life as Female Scientist
    Washington Post, Thursday, July 13 (2006).
    https://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/12/AR2006071201883.html
  4. Anne E. Lincoln, Stephanie Pincus, Janet Bandows Koster, Phoebe S. Leboy
    The Matilda Effect in Science: Awards and Prizes in the US, 1990s and 2000s
    Social Studies of Science 42, 307–320 (2012).
  5. Nature EDITORIAL
    Diversity in science prizes: why is progress so slow? Many prize-givers still don’t publish details of nominations — a key step towards ensuring that awards are fair and unbiased
    Nature 606, 433-434 (2022).
    https://media.nature.com/original/magazine-assets/d41586-022-01608-z/d41586-022-01608-z.pdf
  6. Nature News
    Women More Likely to Win Awards That Are not Named After Men - An Analysis Finds That Women Have a Better Chance of Winning Awards not Named After a Person Than of Winning Prizes Named After a Man
    Nature News 01 June 2022
    doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-01506-4
  7. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)
表1 19世紀から20世紀のマチルダ効果の事例
研究者 業績 マチルダ効果を被った事柄
ネッティー・スティーブンズ
(1861 - 1912)
XY性別決定システムの発見 この発見は、最初はネッティーの主張に反対を唱えていた著名な遺伝学者であるトーマス・ハント・モーガンによるものとされてきた。遺伝学の分野における広範な研究にもかかわらず、ネッティーの貢献はしばしば無視されている。
メアリー・ウィットン・
カルキンズ
(1863 - 1930)
「他の鮮明な刺激と対になった刺激はより容易に想起されること」と「露出の長さがよりよい想起につながること」を発見
Calkinsのペアアソシエーション法の考案
これらの発見に対してメアリーに何の名誉も与えられることがなく、発見につながった調査結果は後にゲオルク・エリアス・ミュラーとエドワード・ティチェナーによってメアリーのクレジットの記述なしに使用された。
マリ・スクウォドフスカ‐
キュリー
(1867 - 1934)
放射性新元素の発見 最初のノーベル賞(物理学)受賞は、女性科学者の支持者でノーベル賞選考委員であったスウェーデンの数学者ヨースタ・ミッタク‐レフラーとマリの共同受賞者で夫のピエール・キュリーの主張のみによって選ばれた。フランス科学アカデミーはノーベル賞への推薦状からマリの名前を意図的に削除していた。その後、マリはフランス科学アカデミー会員の選挙で、業績がはるかに劣る男性研究者に敗れている。
リーゼ・マイトナー
(1878 – 1968)
核分裂の理論的基礎を築いた 1944年にオットー・ハーンにノーベル化学賞が単独受賞者として授与されたが、リーゼは彼女の性別とユダヤ人の身分のせいで、ノーベル賞選考委員会に認めらず授賞されなかった。
フリーダ・ロブシャイト-
ロビンズ
(1893 – 1973)
貧血に対する肝臓療法の発見 この業績でジョージ・H・ウィップル、ジョージ・リチャーズ・マイノット、ウィリアム・P・マーフィに1934年にノーベル賞(生理学・医学)が授与された。フリーダはウィップルのほぼ全ての論文の共著者であったため、ウィップルはフリーダがノーベル賞受賞に値すると考え、賞金を彼女と共有した。
マリエッタ・ブラウ
(1894 – 1970)
ヘルタ・ワムバッハ
( 1903 – 1950)
素粒子物理学の分野で、先駆的な発見 セシル・パウエルが1950年ノーベル物理学賞を受賞した。この選考でエルヴィン・シュレーディンガーはマリエッタとヘルタを賞にノミネートしたが、どちらも除外された。
ロザリンド・フランクリン
(1920 - 1958)
1953年のDNA構造の発見のための決定的なデーターであったDNA結晶の鮮明なX線の写真撮影に成功 ロザリンドが撮影したB型DNAのX線写真が、モーリス・ウイルキンスにより無断でジェームズ・ワトソンに見せられた。さらに、ロザリンドが英国医学研究機構に提出した非公開の年次報告書が、マックス・ペルーツによって無断でフランシス・クリックに手渡され、ワトソンとクリックのDNA構造発見に決定的な情報を与えることとなった。それにもかかわらず、DNA構造の発見の時点で、ロザリンドが成した研究は適切に評価されていなかった。
エスター・レーダーバーグ
(1922 – 2006)
細菌のコロニーをひとつのシャーレから別のシャーレに移すレプリカプレート法を開発.ラムダファージの発見
遺伝学および細菌学研究の基礎を築いた稔性因子に関する研究
ジョシュア・レーダーバーグはジョージ・ビードルとエドワード・タータムと共に1958年ノーベル生理学・医学賞を受賞したが、エスターの功績は認められなかった。
マルト・ゴーティエ
(1925 - )
ダウン症候群の原因となる染色体異常の発見 この発見がジェローム・ルジューヌだけによるものと、情報操作された。現在はマルトの貢献が認められている。
マリアン・ダイアモンド
(1926 - 2017)
脳の可塑性の現象を実験的に発見 1964年の論文が発表されようとしていたとき、2人の共著者デイビット・クレッチとマーク・ローゼンツワイグの名前がマリアンの名前の前に置かれ、マリアンの名前は括弧の中に置かれていた。マリアンの抗議により、彼女の名前は括弧なしで一番目に置かれることになった。
ENIAC (electronic numerical integrator and calculator)のプログラマ
アデル・ゴールドスタイン
キー・マクナルティ
ベティ・ジェニングス
ベティ・スナイダー
マーリン・ウェスコフ
フラン・バイラス
ルース・リターマン
プログラミングでENIACのプロジェクトに多大な貢献 ENIACの歴史で彼らの貢献は無視され、ソフトウェアの達成よりもハードウェアの達成に焦点が置かれてきたa,b)
ジョスリン・ベル・バーネル(1943- ) 電波パルサーの発見 この発見で、ジョスリンの指導教員であったアントニー・ヒューイッシュとマーティン・ライルが1974年にノーベル物理学賞を受賞したが、ジョスリンは受賞対象から除外された。
  • a) Jennifer S. Light, "When Computers Were Women." Technology and Culture 40. 455-483 (1999).
  • b) Jamie Gumbrecht, “Rediscovering WWII's female 'computers'”. CNN (2011年2月). 2011年2月15日閲覧.

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マネージャーといえば「男」現象

マネージャーといえば「男」現象(The “think manager-think male” Phenomenon)とは

マネージャー(経営者、部長などの管理職)になる者の印象(支配的、断定的、野心的)や、 求められる特性(決断力がある、強靭、論理的、能動的)が、ステレオタイプの男性像と高度に重なる現象1, 2

 

一方で、ステレオタイプの女性像(協同的、柔和、親切、細やか)は、一見、好ましい特性に思えるが、管理職やリーダーを選ぶ際には男性の方が適しているという判断につながってしまう。 更には、管理職やリーダーが自分に合っているどうかの判断にも影響し、リーダーを目指す、リーダーシップを発揮するといった行動の発動を左右する2

モグラ
  1. Amarette Filut, Anna Kaats, Molly Carnes
    The Impact of Unconscious Bias on Women's Career Advancement.
    The Sasakawa Peace Foundation Expert Reviews Series on Advancing Women's Empowerment (2017).
    (共訳)大坪 久子, 田中 順子
    無意識のバイアス̶ 女性のキャリア形成にあたえるインパクト
    https://www.spf.org/global-data/2018070319201159.pdf
  2. Anne M. Koenig, Alice H. Eagly, Abigail A. Mitchell, Tiina Ristikari
    Are Leader Stereotypes Masculine? A Meta-Analysis of Three Research Paradigms.
    Psychological Bulletin 137, 616-642 (2011).
    https://doi.org/10.1037/a0023557
  3. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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無意識のバイアス

無意識のバイアス(Unconscious bias)とは

2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンによって提唱された概念で、誰もが潜在的にもっている偏見、知らないうちに脳に刻まれた固定観念である1。対象は、ジェンダー・人種・宗教・民族・経験値など、多岐にわたり、採用や昇進などの人事の過程で女性やマイノリティに不利に働きがちである。

カーネマンは、人の判断と選択をシステム1(無意識的自動モード)とシステム2(意識的モード)のふたつの思考モードで説明し、外から受信する情報の大部分がシステム1で処理されるとした2

システム1は、無意識下で自動的に作動し、直感的、感情的で経験則に大きく依存し、ものごとを判断する際に安易で便利なショートカットとして働く。とっさの危険の回避に非常に有効なモードであるが、単純で一貫性(つじつまの合うストーリー)を求めるためバイアスに影響され、往々にして間違いを犯す。

システム2は、システム1から送られてきた印象、直観、意志、感触を検証し調整する能力を持つモードである。システム2は意識的な知的作業であり、システム1の判断にゴーサインを出せば印象や直感は確信に変わる。しかしシステム2は熟考、努力、注意力を要する働きであり“怠け者のコントローラー”であるため、システム1の判断の誤りを見落としがちである。

システム1によく見られる“女性の参画を妨げる無意識のバイアス”として、「ステレオタイプ・スレット」、「属性に基づく無意識のバイアス」、「マイクロアグレッション」、「メリトクラシー」、「偽物症候群」が挙げられている3。女性の参画を推進するためには、上記のような無意識のバイアスが存在することを学び、意識してシステム2を働かせ、これらの影響を最小限に抑える工夫をすることが必要である。

モグラ
  1. Daniel Kahneman
    Heuristics and Biases: The Psychology of Intuitive Judgment
    Cambridge University Press (1982)
    ISBN-10: 0521284147; ISBN-13: 978-0521284141
  2. ダニエル・カーネマン(著), 村井 章子(翻訳)
    ファスト&スロー(上・下)あなたの意思はどのように決まるか?
    ハヤカワ・ノンフィクション文庫 (2014)
    ISBN-10: 4150504105, ISBN-13: 978-4150504106
  3. Celeste M. Rohlfing
    化学の世界にもっと女性リーダーを:米国の視点から
    化学と工業, 72, 327-328 (2014)

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メリトクラシー(能力主義、実力主義)

メリトクラシー(Meritocracy)とは

生来の財や身分ではなく、能力や業績によって成功や権力が手に入る社会、組織、またはシステム。merit(功績、業績)とcracy(階級、支配)から成る造語で、1958年、イギリスの社会学者マイケル・ヤングが“アリストクラシー(貴族性社会)”に対応させて提唱した1

属性ではなく本人の能力で社会的地位が決まる仕組みは、一見、公平に見えるが、能力を測る指標が実績、学力、学歴などであり、これらは努力して積み上げるものではあるが、努力できる環境(家庭、学校、職場、地域)に恵まれて来たかどうかに左右され、少なからず属性に支配される。結果、学歴・貧困の世代間連鎖など、メリトクラシーが新たな階層社会や分断を生み出している2, 3。また、過度な成果主義や、成功も失敗も全て自己責任という自己責任論を強化し、成果を上げない者を「努力不足」と見下すなどの偏見の増長につながる2。更に、本来異なる価値を持ったものを、一定の尺度 (偏差値や業績指数など)で以って一軸に並べて優劣を付ける手法は、多様性を排除するという指摘もある3, 4

  1. Michael Young
    The Rise of the Meritocracy.
    An essay on education and society, Thames and Hudson, NY (1958).
    (共訳)窪田 鎮夫, 山元 卯一郎
    メリトクラシー
    講談社エディトリアル (2021).
    ISBN-13: 978-4866770895
  2. 吉田 邦夫
    親ガチャ
    P2Mマガジン14, 80-81 (2022).
    https://doi.org/10.20702/iaptwombulletin.14.0_80
  3. Michael J. Sandel
    Tyranny of Merit: What's Become of the Common Good?
    Farrar, Straus and Giroux, NY (2020).
    (訳)鬼澤 忍
    実力も運のうち 能力主義は正義か?
    早川書房 (2021).
    ISBN-13 : 978-4152100160
  4. 本田 由紀
    教育は何を評価してきたのか
    岩波書店(2020).
    ISBN-13: 978-4004318293
  5. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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ADVANCEプログラム

ADVANCEプログラム(Organizational Change for Gender Equity in STEM Academic Professions)とは

全米科学財団(National Science Foundation、 NSF) がSTEM分野における女性とマイノリティ研究者の数・割合を増やすために、大学や研究機関を対象として実施している女性研究者支援事業で、2001年に開始された1。これ以降、100以上の高等教育機関やSTEM関連非営利団体に対して、2億7000万ドル以上が支援のために提供されている。

NSFではそれまで、女性研究者を個別に支援してきたが、女性研究者の割合は期待したほど増加せず2、大学組織そのもののシステム、文化、意識の変革が最重要課題であると認識され、ADVANCEプログラムが登場することとなった。ADVANCEプログラムには4つの助成トラックがあり、それは、Institutional Transformation (IT)、Adaptation、Partnership、IT-Catalyst の4分野である。

女性研究者割合を増やすための重要なステップは「選ぶ段階」と「育てる段階」であるが、人事選考には往々にして「無意識のバイアス」が働きがちである.ADVANCEプログラムでは「無意識のバイアスを知ること、そして克服すること」をその旗印とし、人事選考に関する様々なツールがいろいろな大学で開発された。ADVANCEプログラム開始後、アメリカの分野別女性教員の比率は増加しており3、プログラムに一定の効果があったとされている。

  1. ADVANCE at a Glance
    https://www.nsf.gov/crssprgm/advance/
  2. ADVANCE
    https://www.nsf.gov/pubs/2009/nsf0941/nsf0941.pdf
  3. Science and Engineering Indicators
    Science and Engineering Labor Force NSB-2019-8 (2020).
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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DESign

DESign(Data, Experiment, Signpost)とは

ハーバード大学公共政策大学院、ケネディスクール教授、Iris Bohnet が、彼女の名著、What Worksの中で初めて使った言葉である1。単に、Design(デザイン)を意味するのではなく、Data、 Experiment、 Signpostの頭文字をとったもので、D → E → Sign  post  という3つの連携ステップを意味している。その真意は、「統計データをとり続け(Data)、調査や実験を行い(Experiment)、その結果から可能なゴールを決める(Signpost)こと」を意味する。

彼女はこの著書のなかで、数々の事例を挙げて、大学の研究室や役員会議室で進められる採用、昇進、企業の福利厚生、政府の政策立案等々について、無意識のバイアスが与える影響に警鐘をならし、それを超えて前進するためのヒントを提示している。そのヒントのひとつとして、彼女は “What does not get measured cannot be fixed。”と 述べている(データを取れないような事象について、制度化することは不可能だ)。どのような組織であっても、最初にすべきことは「データをとる (measure) こと」、「データをとってバイアスの存在を可視化すること」で、組織は「次に何をすべきか(fix)」 がはっきりわかるはずと述べた。彼女の主張は、「個人の無意識のバイアス(Unconscious Bias)はそう簡単に消えるものではない。ならば、むしろ、大学や組織のバイアスをコントロールしようではないか」のひとことに尽きる。

2016年春に出版された原著は分厚いが平易な英語で書かれている。しかし、内容は著者の専門性と経歴を反映して深く広い。この英語版の紹介は下記Polymorfia3号、「書籍紹介」に掲載されている2。また、日本語訳「WORK DESINE―行動経済学でジェンダー格差を克服する―」が2018年に出版された3

  1. Iris Bohnet
    WHAT WORKS: Gender Equality by Design
    Belknap Press: An Imprint of Harvard University Press (2016).
    ISBN-10: 0674089030
    ISBN-13: 978-0674089037
  2. ポリモルフィア
    Vol. 3 (2018) 九州大学男女共同参画推進室編集委員会編
    https://danjyo.kyushu-u.ac.jp/activity/index2.php?r_mode=2
  3. イリス・ボネット(著),池村 千秋(訳),大竹 文雄(解説)
    WORK DESIGN (ワークデザイン): 行動経済学でジェンダー格差を克服する
    NTT出版 2018/7/5発刊
    ISBN-10: 4757123590
    ISBN-13: 978-4757123595
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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POWRE

POWRE(Professional Opportunities for Women in Research & Education) とは

女性の科学者やエンジニアへの米国国立科学財団(National Science Foundation、 NSF)の投資の1つであり、原子物理学から動物学に至るまでの分野の研究と教育における学術的および制度的リーダーの育成を促進しするために、1997年に開始された賞 "Professional Opportunities for Women in Research & Education" の略称である1

1998年には、米国国立衛生研究所(NIH)の女性の健康に関する研究室の追加資金が加わり、授与総額は合計1,300万ドルを超えた。本賞は2002年に最後の受賞者を選抜し 6年間で幕を閉じた。本賞による支援で明らかになった問題点を含め、それらを改善するため、NSFにより2001年から ADVANCEプログラムが開始された2, 3

  1. 米国国立科学財団(NSF) 公式ホームページ、
    https://www.nsf.gov/
  2. 河野銀子,小川 眞里子,横山 美和,大坪 久子,大濱 慶子,財部 香枝
    女性研究者支援政策の国際比較 日本の現状と課題 第1章41ページ , 第2章52ページ, 明石書店(2021).
    ISBN:978-4-7503-5302-9 (2021).
  3. Kempf, M.
    “EmPOWREment and ADVANCEment for Women: NSF Programs for Women
    in Science,” Science, Sep. 20 (2002).
  4. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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STEM

STEM (Science, Technology, Engineering and Mathematics)とは

Science, Technology, Engineering and Mathematicsの略で、科学・技術・工学・数学の分野のことである。

元々は、SMET(Science, Mathematics, Engineering, and Technology)と呼ばれており、アメリカ国立科学財団(National science Foundation; NSF)が1990年代に、これらの分野における教育の質向上のために、教育プログラム(National Science, Mathematics, Engineering, and Technology Education Digital Library (NSDL) program)を立ち上げた1。しかし、SMETは、smut(汚れ)に発音が似ていることから、その後、STEMと順番を替えて呼ばれるようになった2, 3

アメリカのみならず、EU各国、中国、韓国などでも、国策として、STEM人材育成のための教育が行われている4。日本においても、STEM分野の人材育成が求められており、内閣府5、文部科学省、経済産業省などでも、STEM教育の推進を行っている。特に、高等教育課程でSTEM分野を選択する女子が未だ少ないことから、「リケジョ」、「リコチャレ」という造語を用いて、理工系分野への女性の進学を応援する取り組みなども行われている。

  1. Lee L. Zia
    The NSF National Science, Mathematics, Engineering, and Technology Education Digital Library (NSDL) Program
    A Progress Report
    D-Lib Magazine Volume 6, Number 10 (2000).
    http://www.dlib.org/dlib/october00/zia/10zia.html
  2. Mark Sanders
    STEM, STEM Education, STEMmania
    The Technology Teacher, 20-26 (2009).
    https://www.teachmeteamwork.com/files/sanders.istem.ed.ttt.istem.ed.def.pdf
  3. William F. McComas
    STEM: Science, Technology, Engineering, and Mathematics. In: McComas, W.F. (eds) The Language of Science Education. Sense Publishers, Rotterdam. pp. 102-103 (2014).
    https://doi.org/10.1007/978-94-6209-497-0_92
  4. 文部科学省
    諸外国の政府におけるSTEM人材戦略の取組 (2018).
    https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2018/09/18/1409229_06.pdf
  5. 内閣府
    STEM:21世紀の教育と人材育成
    「選択する未来2.0」有識者懇談会講演資料(2020年10月23日).
    https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20201023/shiryou2.pdf
  6. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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Top Ten Tips

Top Ten Tipsとは

NSFの女性研究者支援事業ADVANCEプログラムでは、人事選考に関する様々なツールがいろいろな大学で開発された。中でもウイスコンシン大学マジソン校が出版したガイドブック“Searching for Excellence & Diversity”は全米の各大学の人事選考ツールのモデルとなっている1。Top Ten Tipsとはこのガイドブックの裏表紙に書かれた「人事選考10の心得」(下記)で、選考委員会のメンバーは、人事選考に先立ち無意識のバイアスについて学習し、無意識のバイアスの影響を減らす努力をするように述べられている。ちなみに、ウィスコンシン大学ではADVANCEプログラム開始後に理工系学部の学部長の割合も増加し、積極的な組織改革と意識改革の成功事例となった2

  1. 多様性のある委員会
  2. 委員会メンバー間の信頼関係
  3. 基本原則の確立と面接条件の細かい規定
  4. 候補者の多様性と優秀さについて共通認識をもつこと
  5. 広い範囲にわたって、多様な候補者を求めること
  6. 積極的な求人活動
  7. 無意識のバイアスについて事前に学習
  8. 無意識のバイアスの影響を減らす努力
  9. 面接した候補者には採用の可否に関わらず丁寧に対応
  10. 最終候補者たちと良い関係を保つ
  1. University of Wisconsin-Madison
    “Searching for Excellence & Diversity” by WISELI
    https://wiseli.wisc.edu
  2. Jennifer Sheridan
    Gender Equity Indicators at UW–Madison https://wiseli.wisc.edu/research/gender-equity-indicators
  3. (WEB サイトの閲覧日は、2022年8月31日)

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執筆者(五十音順)
 
裏出 令子(日本農芸化学会)
大坪 久子(日本遺伝学会)
大野 みずき(日本遺伝学会)
恩田 真紀(日本農芸化学会)
熊谷 日登美(日本農芸化学会)
鷹野 典子(日本遺伝学会)
袴田 航(日本農芸化学会)
日高 京子(日本分子生物学会)
山口 勇将(日本農芸化学会)
吉永 直子(日本農芸化学会)
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